サラリーマン
タイガー
すみません、お店の昇降機のことでご相談したくて…。2階の客席に料理を上げるのに毎日使っているんですが、今朝から動かなくなってしまって。ただ、うちはビルを借りている側なんです。
MEC
タイガー
それは営業に差し支えますね。まず状況を伺わせてください。テナントとして入居されているということは、その小荷物専用昇降機(ダムウェーター)は、もともとビルに付いていたものでしょうか?
サラリーマン
タイガー
はい、入居したときから付いていました。前に入っていた飲食店さんが使っていたものを、そのまま引き継いだ形で…。こういうとき、大家さんに言えばいいんでしょうか。それとも自分で修理業者を探すものなんでしょうか。
MEC
タイガー
結論から言うと、まずは大家さん(または管理会社)にご連絡ください。とても多いご相談です。そのうえで大事なのが、「法律で決まっている義務」と「修理費用を貸主と借主のどちらが払うか」は、別々の話だということです。
サラリーマン
タイガー
えっ、別々…? 同じことだと思っていました。
昇降機には、年に1回、資格を持った検査員に検査させて、その結果を行政に報告する制度があります。定期検査報告と呼ばれるもので、建築基準法第12条第3項に定められています。
この報告をする義務を負うのは、条文でこう決められています。
📖 建築基準法第12条第3項(要約)
報告する義務を負うのは、その設備の所有者。ただし、所有者と管理者が異なる場合は「管理者」が報告する。
ここで注目していただきたいのは、「借主(テナント)」という言葉が出てこないことです。テナントとして一室・一区画を借りて使っているだけなら、原則としてこの報告義務を負うのは、あなたではなく建物側ということになります。
| 建物の使われ方 | 報告義務を負うのは誰か |
|---|---|
| 自社ビル(持ち主が自分で使っている) | 所有者=自社 |
| オーナーが自分で管理している貸しビル | 所有者=オーナー |
| 管理会社に管理を任せている貸しビル (実務ではこの形がいちばん多い) |
管理者=管理会社になることが多い (管理委託契約の中身によります) |
| 建物を1棟まるごと借りて、自分で管理している | 借りている側が「管理者」になる場合があります |
⚠️ 報告を怠ると罰則があります。
定期検査報告をしなかったり、うその報告をしたりした場合、100万円以下の罰金が科されることがあります(建築基準法第101条)。行政からの「定期報告のお知らせ」はがきは、通常この報告義務を負う方あてに届きます。
サラリーマン
タイガー
なるほど、報告するのは基本的に建物側なんですね。少しホッとしました。
MEC
タイガー
ええ。ただし1棟まるごと借りて、管理まで任されている場合は別です。契約の形によっては、借りている側が「管理者」として報告義務を負うことがあります。思い込まずに、契約書と管理会社に確認してください。
ここからがもう一つの話です。報告義務は法律で決まっていますが、修理費用や点検費用を貸主と借主のどちらが負担するかは、法律よりも「賃貸借契約書の中身」で決まります。
民法には、「貸主は、貸している物を使えるようにしておくための修繕をする義務を負う」という原則があります(民法第606条第1項)。この考え方でいけば、建物に元から付いている昇降機の修理費用は貸主の負担が基本です。ただし、借主の使い方が原因で壊れた場合は、この限りではありませんとも書かれています。
そして実務では、この原則を契約書の特約で修正しているケースがとても多いのです。「小修繕は借主負担」「1件◯万円未満の修理は借主負担」といった条項です。特約がある場合は、そちらが優先されます。
| 契約書のどこを見るか | 確かめること |
|---|---|
| 設備一覧・付帯設備表 | 昇降機が「貸主が備え付けた設備」として書かれているか |
| 修繕に関する条項 | 「小修繕は借主負担」などの特約がないか。金額の線引きはいくらか |
| 保守点検・法定検査の費用 | 保守契約の費用は誰が持つか。契約の名義は誰か |
| 原状回復の条項 | 退去するとき、昇降機をどう扱うと書かれているか |
⚠️ 借主が独断で業者を呼んで直してしまうのが、いちばんもめます。
あとから「頼んでいない工事だ」と言われ、費用を負担してもらえないことがあります。急いでいても、まず連絡 → 誰が手配するか決める → 見積を出すの順番を守ってください。
サラリーマン
タイガー
…白状すると、前に扉の調子が悪かったとき、知り合いの業者さんに見てもらったことがあって。そのときは自分で払ってしまいました。あれ、まずかったですか?
MEC
タイガー
責めるお話ではありません。民法には、本来は貸主が負担すべき費用を借主が立て替えたときに、返してもらえる仕組みもあります(民法第608条)。ただ実際は、領収書と作業報告書が残っているかどうかで話の進み方がまるで違います。書類はぜひ取っておいてください。
いちばん多い形です。昇降機は貸主の所有物なので、定期検査報告も、大きな修理費用も、原則は貸主側。日常の清掃や、明らかに使い方が原因の不具合(積みすぎ、扉の乱暴な開け閉め、荷物の引っ掛けなど)は借主負担とされることが多くなります。
なお実務では、オーナーさんとは別に管理会社が入っていて、やり取りはすべてその管理会社を通すという形がよくあります。この場合、あなたの連絡先も、修理を手配する相手も、まず管理会社です。管理会社を飛ばしてオーナーさんに直接持ちかけると、結局そこから管理会社に差し戻され、二度手間になります。
飲食店や介護施設でよくある形です。この場合、建物の管理そのものを借主が担うと契約で決めていることがあり、そのときは定期検査報告も借主の役目になります。「大家さんがやってくれているはず」と思い込んだまま、数年間だれも報告していなかった——というつまずきが実際に起きます。
この場合、昇降機は借主の所有物です。点検も修理も、そして定期検査報告も、設置した側が引き受けるのが基本になります。あわせて、退去するときに撤去するのか、置いていくのかを、設置する前に書面で決めておいてください。撤去には工事費がかかりますし、置いていく場合は貸主の同意が要ります。
💡 後付けの設置は、建物側の手続きが絡むことがあります。
機種や工事の内容によっては確認申請が必要になる場合があり、これは建物の所有者の協力がないと進みません。「借主だけで完結する話」にはならない、と考えておくのが安全です。
✅ ① 状況を記録する
止まった日時、どんな症状か(動かない・途中で止まる・ブザーが鳴る)、操作盤の表示を、スマホで写真に撮っておきます。これが後の説明をとても楽にします。
✅ ② 契約書に書かれた窓口に連絡する
連絡先は大家さんとは限りません。管理会社が窓口になっているケースが多いので、契約書の連絡先を見て、そこへ一報を入れてください。電話だけで終わらせず、メールなど文字の残る形でも伝えておくと安心です。
✅ ③ 誰が業者を手配するか、その場で決める
「そちらで呼んでください」なのか「こちらで呼びます」なのかを、はっきりさせます。ここを曖昧にしたまま進めるのが、いちばんの火種です。
✅ ④ 見積と作業報告書を、双方で共有する
金額と作業内容が書面で残っていれば、負担の話し合いは驚くほどスムーズになります。
サラリーマン
タイガー
よく分かりました。ちなみに、うちのビルは保守点検の契約はしていると聞いているんですが、それも大家さん名義なんでしょうか…?
私たちが実際にお伺いして、しばしば行き当たるのが次の3つです。
| よくある状況 | どうなりがちか |
|---|---|
| 保守契約の名義が 前のテナントのまま |
前の会社が退去したときに契約が切れていて、実は何年も点検されていなかった |
| 検査報告済証が 見当たらない |
貸主が保管しているのが普通。見当たらないときは、そもそも報告されていない可能性も |
| 建物の持ち主が 途中で変わった |
売買のときに昇降機の書類が引き継がれず、新しいオーナーが設備の存在を知らない |
いずれも、借りている側が悪いわけではありません。ただ、毎日その昇降機を使っているのは借主です。止まって困るのも、荷物が落ちてけがをするおそれがあるのも、まず現場です。だからこそ、「大家さんがやってくれているはず」で止めずに、一度だけ確認しておく価値があります。
MEC
タイガー
「保守契約の有無と名義を教えてください」と一言たずねるだけで十分です。もし「なぜ点検や検査が必要なのか」をうまく説明できないときは、私どもから大家さんや管理会社さんへ、点検と定期検査の必要性をご説明することもできます。技術的な根拠は、専門の者からお伝えしたほうが伝わりやすいですから。
サラリーマン
タイガー
それは心強いです! さっそく契約書を引っぱり出して、大家さんに連絡してみます。ありがとうございました。
テナントとして小荷物専用昇降機を使っている場合、「法律上の義務」と「修理費用の負担」を分けて考えるのが整理のコツです。
① 定期検査報告の義務者は、所有者(所有者と管理者が異なる場合は管理者)。法律で決まっており、原則としてテナントではありません
② ただし1棟借りで管理も担っている場合は、借主が義務者になることがあります
③ 修理費用や点検費用を貸主と借主のどちらが払うかは、賃貸借契約書の特約で決まります。「小修繕は借主負担」といった条項の有無を必ず確認してください
④ 借主が後から自費で設置した昇降機は、点検・修理・報告とも設置した側の役目。退去時の扱いも先に書面で決めておく
⑤ 独断で業者を呼ばず、連絡 → 手配を決める → 見積 の順番を守る
⑥ 連絡先は大家さんではなく管理会社であることが多い。契約書に書かれた窓口を確認してから動く
なお、ここでご紹介したのは一般的な考え方です。最終的な負担は、契約書の中身と個別の事情によって変わります。判断に迷う場合は、契約書を手元に置いたうえでご相談ください。
「うちの場合はどちらの負担になるのか」「大家さんにどう説明すればいいか」「まず点検からお願いしたい」——どんな段階からでも構いません。東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木を中心とした関東圏で対応しております。